2017年03月19日

択捉島の未同定レニウム鉱物(K-Perrhenate)

択捉島北東部にある茂世路岳(ロシア名クドリャブイ火山)の高温噴気孔では、ReS2の化学式を持つレニウム鉱物がロシア科学アカデミーの研究者によって発見され、その発見はNatureに報告されました(Korzhinsky et al.,1994)。その鉱物は2004年に正式に新鉱物レニウム鉱Rheniiteとして承認されました。
茂世路岳の噴気孔では、まだ新鉱物として認定されていない未同定のレニウム鉱物があります。KReO4の化学式を持つK-Perrhenateと呼ばれている鉱物です。K-Perrhenateは過レニウム酸カリウムという化合物の名前ですが、結晶構造が同定されないと新鉱物としては認められません。
K-Perrhenateが初めて報告されたのは2003年のことです。Africanoほか(2003)は、20時間にわたり2ヶ所の噴気孔に挿入された石英チューブ内に析出した鉱物を丹念に調べました。その結果、レニウムフィールドと呼ばれる最高温度690℃の噴気孔からK-Perrhenateを見つけました(下図のA)。一方、モリブデンフィールドと呼ばれる最高温度920℃の噴気孔にはK-Perrhenateはありませんでした。
Africano(2003).jpg
図.Kudryavy火山の位置とサンプル場所(Africano et al.,2003)

K-Perrhenateは625〜645℃の箇所でHalite, Sylviteなどと共に析出し、そのサイズはわずか20μmほどの微細な結晶でした。
KreO4-5.jpg
図.K-Perrhenateの産状(Africano et al.,2003)

Bernard et al.(1990)は高温火山ガス中ではレニウムはHReO4として運搬されるとしました。石英チューブ内でHReO4がKと反応してKReO4としてKCl(Sylvite)と共に析出したと思われます。

その後、Yudovskayaほか(2006)は別の産状のK-Perrhenateを報告しています。彼女らは粗粒のK-Perrhenate結晶(それでも50μm程度ですが)、Ferrimolybditeとの産状、Halite(NaCl)との産状を報告しました。
KReO4-1.jpg
図.K-Perrhenateの単結晶の産状(Yudovskaya et al.,2006)
KreO4-2.jpg
図.K-PerrhenateとFerrimolybditeの産状(Yudovskaya et al.,2006)
KreO4-3.jpg
図.K-PerrhenateとHaliteの産状(Yudovskaya et al.,2006)

さらにDistlerほか(2008)は透輝石Diopside(CaMgSi2O6) 上に析出したK-Perrhenateを報告しています。
KreO4-4.jpg
図.Diopside上のK-Perrhenateの産状(Distler et al.,2008)

択捉島の茂世路岳産のK-Perrhenateもいつか新鉱物として登録される日が来るかもしれませんね。

引用文献
Korzhinsky M.A., Tkachenko S.I., Shmulovich K.I., Taran Y.A., Steinberg G.S. (1994): Discovery of a pure rhenium mineral at Kudriavy volcano. Nature, 369, 51-20.
Africano F., Bernard A., and Korzhinsky M.(2003):High temperature volcanic gas geochemistry (major and minor elements) at Kudryavy volcano, Iturup island, Kuril arc, Russia. Vulcanica Vol.1,p87-94.
BERNARD, A., SYMONDS, R. B. & ROSE JR., W. I. (1990): Volatile transport and deposition of Mo, W and Re in high temperature magmatic fluids. Applied Geochemistry, 5, p. 317-326.
Yudovskaya M., Distler V., and Mokhov A.(2006):Gaseous transport and deposition of gold in magmatic fluid: Evidence from the active Kudryavy volcano, Kurile Islands. Mineralium Deposita, Vol 40, p828-848.
Distler V. V., Dikov Yu. P., Yudovskaya M. A., Chaplygin I. V., and Buleev M. I.(2008):Platinum–Chlorine–Phosphorus–Hydrocarbon Complex in Volcanic Fluids: The First Find in the Terrestrial Environment.Doklady Earth Sciences, Vol. 420, No. 4, pp. 628–631
ラベル:択捉島 レニウム
posted by 日露資源ポテンシャル研究所 at 22:40| Comment(0) | 茂世路岳の鉱物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月01日

行ってみたい国後島の名所(材木岩)

国後島の中心都市ユジノクリリスク(古釜布)から西に約15km、オホーツク海に面した海岸に材木岩と呼ばれる名所があります。ロシア語ではМыс Столбчатый(円柱状の岬)と呼ばれています。 

材木岩位置図.png
図.国後島の名所「材木岩」の位置(ロシア語版Wikipedia)

5角形〜6角形を呈した玄武岩の柱状節理が認められ、観光名所の一つとしてロシアのガイドブックにも出ています。
材木岩1.png材木岩2.png
玄武岩の壁базальтовая стенаと呼ばれる40〜50mの節理はまるで材木が集まったように見えます。左下に人が立っていますので、壁のスケールの大きさが分かると思います。
この材木岩のいろいろな写真をアップデートしているロシア人のブログもあります。

ロシアの地質図によると、材木岩М.Столбчатыйの地質は中新世の噴出岩экструзииからなるλπN1となっています。
l-55-xxxii-zaimokuiwa.jpg
図.ロシア地質調査研究所VSEGEI発行の地質図幅「L-55-XXXII」(Желубовский,1964)

北方領土に日本人が自由に訪れることができるようになれば、ぜひとも行ってみたいですね。

引用文献
Желубовский Ю.С.(1964):L-55-XXXII. Геологическая карта СССР. Серия Курильская.



ラベル:地質図 国後島
posted by 日露資源ポテンシャル研究所 at 10:15| Comment(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月11日

択捉島の希少鉱物(自然クロム)

択捉島の茂世路火山(ロシア語Kudryavy火山)の高温噴気孔からは、自然鉄、自然シリコン、自然アルミニウム、自然チタンなどの金属鉱物が産する他、まだ新鉱物として認定されていない自然モリブデンも産します。

今回は自然クロムを紹介します。
クロム(元素記号Cr)は資源としてはFeCr2O4という化学式を持つクロマイトchromiteが重要です。金属状態のクロムは1981年に中国のクロム鉱山での産状が報告されました(Zhu & Liu, 1981)。
その後世界各地で自然クロムの報告があり、さらに月探査機ルナ24号が持ち帰った月の砂からも自然クロムが発見されました。

日本では1992年までクロム鉱石の採掘が行われていました(平野,2009)。択捉島の噴気孔で見つかったクロムは資源的な価値はまったくありません。
ロシア科学アカデミーの研究者は、鉱物学的研究のため茂世路火山の高温噴気孔内に石英チューブを挿入しました。温度約650-700℃のところに析出した昇華物から、金属の状態である自然クロムが発見されました。
自然クロムは骨格状の細長い結晶で、その表面にはタングステン鉱物である鉄重石ferberiteの微細結晶が析出しています。

Native Cr.jpg
図.石英チューブ内に析出した自然クロム(Yudovskaya et al.,2006)

昇華物中のクロム品位は最大692ppmと品位は高いものではありません。
クロム資源としての価値はまったくありません。

表.石英チューブ内の析出物のレアメタル品位(Yudovskaya et al.,2006)
Table 3 concentrations.jpg

引用文献
Zhu, M., Liu Y.(1981) Discovery of native chromium in Xizang (Tibet). Chinese Science Bulletin: 26(11): 1014-1017.
平野英雄(2009):クロム資源の現状.地質ニュース664号,37 ― 42頁,2009年12月.
Yudovskaya M., Distler V., and Mokhov A.(2006):Gaseous transport and deposition of gold in magmatic fluid: Evidence from the active Kudryavy volcano, Kurile Islands. Mineralium Deposita, Vol 40, p828-848.
posted by 日露資源ポテンシャル研究所 at 02:57| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月04日

北方領土・歯舞群島の残念な地質図

本ブログでは主にロシア地質調査研究所VSEGEI発行の地質図を用いて、歯舞群島の地質を説明してきました。日本による地質図は主にWebで無料で閲覧できるサイト「地質図Navi」のキャプチャ画像を用いて、説明してきました。

歯舞群島シームレス地質図.jpg
図.歯舞群島のシームレス地質図(地質図Navi)

Websiteでのキャプチャ画像よりも、紙面の地質図のオリジナル図面の方が見やすくわかりやすいです。しかし出版されている地質図には著作権があります。通常は無断の複製・転写を禁じますと書かれています。ですので基本的には私のブログでは、日本の論文等で公表されている図面のみを、引用をつけて上でブログに載せています。
出版されている地質図をブログにアップロードすることにより、利用者がダウンロードで済ませ、新規に購入しなくなる可能性があります。勝手に地質図をアップロードしてはいけないのです。クレームが来る可能性が十分にあります。

一方で、ロシアが作成した北方領土の地質図はどんどんこのブログに載せています。
ロシア地質調査研究所で公表されている図面も多いし、ロシアからこのブログにクレームが来る可能性も限りなく低いと思うからです。
もしロシアから「勝手に北方領土の図面を使うな」というクレームが来たら、「うるせえバカ、早く北方領土から出て行け」と答える予定です。

k-55-iii-karta-habomai.jpg
図.1964年VSEGEI発行の地質図幅「K-55-II」「K-55-III」(Желубовский,1964)

日本の地質図は無料で公表されている図面以外、極力載せたくないのですが、ひとつだけ、私が持っている本の中の「北方領土2百万分の一地質図」をお見せします。歯舞群島〜色丹島にかけては、北部に古い白亜紀の地層、南側はそれよりもやや新しい地層が分布しています。色丹島では東部では出崎山一帯、西部ではノトロ、コンブウス付近に深成岩類が分布しています。

歯舞群島の地質図.jpg
図.北方領土の2百万分の一地質図(筆者所有書物)

でもこの地質図、一つ残念なところがあります。歯舞群島を拡大します。歯舞群島の地質図 -拡大.jpg
図.歯舞群島の拡大

実はこの地質図は島の名前が違うのです。とても残念です。
志発島が勇留島、そして多楽島が志発島となっています。歯舞という漢字を読めなかった北方領土担当大臣も残念ですが、やはり図面の島の名前はしっかり表記してもらいたいものです。
歯舞群島位置図.jpg
図.歯舞群島の島々

歯舞群島には主要な島では以下の島々があります。
貝殻(かいがら)島:シグナリヌイ島Остров Сигнальный
オドケ島:リーフォヴィ島Остров Рифовый
萌茂尻(もえもしり)島:ストロジェヴォイ島Остров Сторожевой
水晶(すいしょう)島:タンフィーリエフ島Остров Танфильева
秋勇留(あきゆり)島:アヌーチナ島Остров Анучина
勇留(ゆり)島:ユーリィ島Остров Юрий
春苅(はるかる)島:デーミン島Острова Дёмина
志発(しぼつ)島:ゼリョーヌイ島Остров Зеленый
多楽(たらく)島:パロンスキー島Остров Полонского
海馬(とど)島:アスコーラク島Острова Осколки
それぞれの地質もこのブログで説明していますので、興味ある方は歯舞諸島のタグを選択してもらえるとありがたいです。

引用文献
Желубовский Ю.С.(1964):K-55-II. Геологическая карта СССР. Серия Курильская.
Желубовский Ю.С.(1964):K-55-III. Геологическая карта СССР. Серия Курильская.







ラベル:歯舞諸島 地質図
posted by 日露資源ポテンシャル研究所 at 03:57| Comment(0) | コラム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月01日

択捉島の希少鉱物(自然モリブデン)

レアメタルであるモリブデン(元素記号Mo)は、輝水鉛鉱(MoS2)が資源として重要な鉱物です。
輝水鉛鉱を主とするプライマリーMo鉱床と、ポーフィリー型銅鉱床でMoが副産物として産出するバイプロダクトMo鉱床の2種類があります。

択捉島の茂世路火山(ロシア語Kudryavy火山)の高温噴気孔には、レニウムを含む輝水鉛鉱が産出します。さらに鉱物学的研究のためにロシア科学アカデミーの研究者が噴気孔内に挿入した石英チューブの温度約500℃のところに析出した昇華物からは、金属の状態である自然モリブデンが発見されました。

自然モリブデンは世界の数箇所で産出の報告がありますが、これまで新鉱物として登録されていません。
また1976年にソ連が打ち上げた無人月探査機ルナ24号(ロシア語: Луна-24)がサンプルリターンに成功した月の砂にも最大6μmのサイズの自然モリブデンが含まれていました(Mokhov & Kartashov, 2007)。

択捉島で発見された自然モリブデンもミクロンサイズです。
下図のバーは2μmであるのに対し、自然モリブデンは約1 μmの大きさです。

Native Mo.png
図.石英チューブ内に析出した自然モリブデン(Yudovskaya et al.,2006)

自然モリブデンはGd3.6Mn1.4Ti6O19という化学組成を持つGd titanateの表面に析出しています。
あまりにサイズが小さいので、これでは新鉱物として申請するための鉱物学的データは取得できません。

人間が挿入した石英チューブではなく、択捉島の高温噴気孔の中で、サイズの大きい自然モリブデンが見つけることができれば、新鉱物として登録される日がいずれ来るかもしれません。

引用文献
Mokhov A.V., Kartashov P.M., e.a. (2007) Association of carbon-rich substance and native molybdenum in lunar regolith from Mare Crisium,- Doklady Earth Sciences, 415A(6), pp. 926-928.
Yudovskaya M., Distler V., and Mokhov A.(2006):Gaseous transport and deposition of gold in magmatic fluid: Evidence from the active Kudryavy volcano, Kurile Islands. Mineralium Deposita, Vol 40, p828-848.
posted by 日露資源ポテンシャル研究所 at 10:05| Comment(0) | 茂世路岳の鉱物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする